「新規事業の動きが悪く、思うような手応えを感じられない…」新規事業を立ち上げたものの想定していた結果を得ることができず、困っている事業主は多いことでしょう。もしかするとその原因、需要(顧客ニーズ)の調査手法にあるかもしれません。
焦点を当てるのは調査の「中身」よりも「手法」。その情報は「いつ」「誰から」「どのようにして」収集したのかが重要です。
多くの企業は、事業部内(作り手側)で議論し計画を立案します。しかし、これでは顧客の「本音」が分からず、作り手側の想定範囲内でしか動けません。議論を繰り返すよりも、顧客にヒアリングする方が得るものは大きいはず。その結果、より顧客ニーズを捉えた効果的な事業計画につながることでしょう。
そこで今回は、ヒアリングの重要性について効果的な調査方法を交えながら解説致します。
新規事業では、何故「ヒアリング」が必要なのか
ヒアリングとは
ビジネスシーンにおけるヒアリングとは、顧客や識者、もしくは想定顧客から「情報収集」や「聞き取り調査」を実施することを指します。
その目的は、ヒアリング相手からの要望や意見、また意向などを把握することです。これにより、利用者の本音(利点や不満)に気付き、自社の強みや弱みを客観的に分析できるようになります。
また、利用者の本音を知ることで、問題の抜本的な解決や画期的なアイデアにつながります。そのため、ヒアリングと計画立案を結び付けることは、サービスの品質向上において必要不可欠なのです。
新規事業が、ヒアリングを実施する理由
主にヒアリングは、顧客が「どのようなサービス・商品を欲しているか」について調査することを目的としています。言いかえればヒアリングとは顧客ニーズの調査であり、その根幹となるのは顧客ニーズの理解です。理解が深まることで、計画の軸となる課題も明確になります。
また、顧客ニーズの継続性にも着目しなければなりません。計画段階では需要があった商品やサービスも、実行段階では興味が失われていることもあります。そのため「どうすれば、これから先も必要とされるのか」という点を重視して、ヒアリングすることも重要です。
事業を成功へ導くには、期待に応え信頼を勝ち取る必要があります。しかし、前例のない新規事業にとって、それは容易ではありません。実現には、質の高い情報が必要になります。そのためには、顧客へのヒアリングが効果的なのです。
顧客ニーズの調査・分析
繰り返しになりますが、新規事業において顧客ニーズの理解は重要です。その理由として大きく二つが挙げられます。
第一に顧客の求めるリソースが明確になり、的確な情報分析につながるためです。情報収集や議論を事業部内に留めていると、作り手の想像でしか仮説を立てられません。その結果、顧客の求めるリソースから外れ、数字を伸ばすことも難しいでしょう。このような事態を防ぐためにも、ヒアリングにより正しい顧客ニーズを調査することが重要です。
次に、顧客自身も気が付いていない「隠れたニーズ」を見つけ出すためです。隠れたニーズとは、顧客がそのサービスや商品を利用している本当の理由です。「なぜ、その商品が欲しいのか」「なぜ、それが良いのか」これらの問いには、顧客なりの理由があります。
ルームランナーの購入を検討しているユーザーを例に挙げてみます。
顧客の思考 | 理由 | |
---|---|---|
1 ↓ | ルームランナーが欲しい | ・ジムに通う時間はない、自宅で運動不足を解消したい |
2 ↓ | 何故、自宅なのか | ・外出するのが面倒、 ルームランナーなら手軽にいつでもウォーキングができる ・室内でテレビや動画を見ながらウォーキングができる |
3 | 自宅・手軽・動画(テレビ) | ※隠れたニーズ |
上記の例では、下記のような「隠れたニーズ」が見つかります。
- 自宅でウォーキングするなら、稼働音や振動が静かなものが良い
- 手軽に始められるように、簡単に収納できるものが良い
- ウォーキングしながら動画が見られるように、タブレットスタンドがあると良い
このように「隠れたニーズ」を理解することで、需要に合わせた付加価値が加わり、企業独自のサービスや商品の品質向上につながります。
ターゲットの鮮明化
新規事業の立ち上げには、骨子となるコンセプトの立案が必要になります。その中で重要なことは「誰に対して、どのようなサービスや商品を作るのか」という点です。
この「誰」というターゲットイメージを明確にするため、多くの企業ではペルソナが作られます。このとき、実際にヒアリングした顧客がいれば、ターゲットイメージはより鮮明になることでしょう。また、ペルソナを実際の顧客に近づけることで「隠れたニーズ」の掘り起こしにもつながります。
ターゲットイメージを鮮明にするには、実際の顧客がどのような人物であるのかを知る必要があります。このような課題をクリアするため、新規事業では顧客へのヒアリングが必要とされているのです。
新規事業を立ち上げる前に調査・ヒアリングするべき項目
続いては、具体的にどのような内容を顧客にヒアリングするべきかについて解説します。
「需要の深度」計画中の商品・サービスはすぐに動きがあるものか?
ヒアリングでは、顧客の需要(興味)の深さに着目しなければなりません。新規事業では、短期決戦による営業戦略が求められます。その理由は、投資回収期間の長期化を防ぐためです。一定の実績が表れず投資を回収できないと推測された場合、事業計画は直ちに中止になることでしょう。そのため、徐々に顧客からの信頼を増やそうとする長期的な営業戦略は不向きです。
事業計画を結果につなげるには、顧客の興味の深さを理解する必要があります。興味の深さが必要度に直結するため、無くても困らないものの興味は薄く、今すぐにでも欲しいものへの興味は必然的に高くなります。
これと同様に「この商品は今すぐ欲しくなるものか」というテーマに基づき、ヒアリングを実施すると良いでしょう。
「需要の分散化」既存事業と重ならずに、シナジー効果を期待できるか?
次に、ヒアリングを通じて需要を分散化し、ターゲットを絞り込む必要があります。ものが飽和し利便性に優れた現代の市場では、明らかな利益があるものでなければターゲットは商品を買い替えようと思わないでしょう。
広く浅く構えるのではなく、狭くても特定のターゲットに深く刺さる商品を作ることが重要です。これにより、既存企業との棲み分けにつながり、自社競合を回避することができます。お互いの長所が活かせるようになれば、シナジー効果にも期待が持てるでしょう。
「需要の見直し」事業計画を客観的に見直し分析、本当に需要はあるのか?
現代の市場は、次々と参入する事業により需要の移り変わりが激化しています。計画段階では需要があった商品も、市場に出回る頃には興味が失われていることも往々としてあります。
このような事態を防ぐには、顧客ニーズを見直すことが重要です。「どうすれば、これからも必要とされるか」「脅威となるものに何があるか」といった点について、ヒアリングでの情報に基づき分析を重ねると良いでしょう。
新規事業で効果的なヒアリング手法
ヒアリング項目シートの作成
ヒアリングを円滑に行うために、事前にヒアリング項目シートを作成することをおすすめします。これを活用することで聞き漏れを防ぎ、均等に情報を収集することができます。
作成する際のポイントは、聞きたい内容をイメージしながら作ることです。ただし、質問攻めになってはいけません。こちらの都合で、回答者はヒアリングを受けてくれています。なるべく負担が掛からないように、配慮することがヒアリング時のマナーです。簡単な受け答えだけで、聞き出したい情報が集まるように調整しましょう。
続いては、具体的なヒアリング項目シートの作成手順について解説致します。
キーワードカードを作成する
まず、キーワードカードを作成します。キーワードカードとは、メモ用紙などに必要な情報を書き出したものです。ここでの目的は、アイデアを絞り出すことにあります。そのため、深くは考えず、気になるポイントを手当たり次第に書き出してみると良いでしょう。
下表は、光回線業者を例にしたものです。
書き出し具体例
項目 | 書き出し例 |
---|---|
自社サービスの強み | ・回線速度が速い ・対応エリアが広い |
自社サービスの弱み | ・定期契約期間が長い ・キャッシュバックがない |
サービス需要の継続性 | ・普及率が上昇している ・コロナでテレワーク増加 |
競合状況 | ・ポケットWi-Fiの増加 ・〇△社のキャッシュバック |
社会的要因 | ・定期契約の解約金廃止(携帯) |
キーワードカードを作成することで、必要とする情報が可視化され整理がしやすくなります。
カテゴリー別に分ける
次に、作成したキーワードカードをカテゴリー別に仕分けます。まずは、大きく内部と外部の要因に分けると良いしょう。内部要因は自社で改善が可能で、外部要因は自社での改善が難しいものです。
自社内で改善が難しいなら、わざわざヒアリングする必要など無いのではと思うかもしれません。確かに市場の情報は、自社での共有に留めておけば良いです。しかし、脅威の情報はヒアリングする必要があります。その理由は、脅威の被害に備えるためです。
自社と競合の商品を比較した顧客の感想は、次回の計画立案や商品開発に活かせます。また、企業内の仮説と顧客からヒアリングで得た情報とでは、信憑性の高さにも違いがあります。
続いて、キーワードを更に細分化し、内部要因を「商品・サービス」「その他」に、外部要因は「脅威」「市場」に仕分けます。
カテゴリー分別例
カテゴリー | 対象になる書き出し | |
内部要因 | 商品・サービス | ・品質・特徴・付加価値・改善点 |
その他 | ・人事・販促・IT活用・サポート状況 | |
外部要因 | 脅威 | ・競合・新規参入・類似品、代替品 |
市場 | ・景気動向・物価・トレンド・規制 |
そして、仕分けたキーワードを取捨選択し、ヒアリングするワードのみ抜き出します。
抜き出すポイントは、以下の順を重視すると良いでしょう。
- サービス・商品に関する案件
- 脅威に関する案件
- 書き出されたキーワード枚数の多い案件
文章にする
次に、取り出したキーワードを文章にします。注意点として「なぜ」を強調しないようにしましょう。なぜを繰り返すと質問口調になり、追及されているように感じます。意見を求めるのではなく、率直な感想や所感で答えられる文言にすると良いです。
良い例 |
・どこで、このサービスを知りましたか |
---|---|
・このサービスを利用したいと思ったのは、いつごろですか ※もしきっかけがあれば、教えてください |
|
・自社以外で良いと思ったのは、どこのサービスですか ※良いと思った理由があれば、教えてください |
|
悪い例 |
・なぜ、この商品を欲しいと思ったのですか |
・なぜ、この商品が良いと思ったのですか ※このサービスの悪い点は何ですか |
|
・なぜ、自社のサービスを選んだのですか ※なぜ、〇△社のサービスを利用しなかったのですか |
仕上げ
最後にチェックシートの追加です。ヒアリングを円滑に行うために、事前に予想される答えをチェックシートにまとめます。先ほどのカテゴリー別に見出しを付けておくと、目的が明確になり分かりやすいです。
光回線業者のサービスについてヒアリングチェックシート例
サ l ビ ス |
「自社の強み」「自社の弱み・改善点」 ・自社サービスのどこが良かったですか ・ 新しく追加してほしい機能や 改善してほしい点があれば教えてください。 |
良かった点 |
改善点 |
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利用料金 |
利用料金 |
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キャンペーン |
キャンペーン |
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プロバイダー |
レ |
初期設定 |
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レ |
回線速度 |
レ |
サポート |
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レ |
提供エリア |
知名度 |
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初期設定に困った リモートサポートがあると良い |
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その他 サマリーシートの作成
ヒアリングによる情報が増えると、ポイントがいくつか浮き彫りになってきているはず。精度を高めるために、質問内容の入れ替えを行いましょう。ポイントとなるカテゴリーを掘り下げると、より効果的です。
また、情報を集計してサマリーシートにまとめます。サマリーシートとは、主要ポイントを抜き出し要点を簡潔にまとめたものです。ヒアリング結果に対しての仮説や、改善案なども明記しておくと後々の会議進行がスムーズになるでしょう。
ヒアリング進行時の注意点
予定通りに進まないことが、ヒアリング進行時には多々あります。
- 想定していたよりも時間が掛かる
- 質問内容が伝わらない
- 聞きたい内容と回答がかけ離れている
「想定していたよりも時間が掛かる」
対応策として、時間にゆとりを持たせてスケジュールを組むと良いでしょう。貴重な情報を時間切れで失ってしまうのは、もったいないことです。時間超過しても対応できるように、終了時刻の直後は予定を空けておくことをおすすめします。また、予定した時間を超過する場合は、必ず回答者の了承を得るようにしましょう。
「質問内容が伝わらない」
対応策として、質問順序を見直しましょう。質問が時系列になっていると、回答者も内容を理解しやすくなります。
- サービスを知った経緯
- 利用してみた感想
- 改善してほしい点
- 追加してほしい機能
- 他社で利用しているサービス、または検討しているサービス
また、カテゴリー別に仕分けた見出しを揃えると、質問内容がまとまり、伝わりやすくなります。
「聞きたい内容と、回答がかけ離れている」
冒頭でヒアリングを実施した背景を、回答者と共有しておくと良いです。事前にこちらの意図を伝えておくことで、目的につながる情報の聞き出しがスムーズになります。また、ヒアリング進行時は、回答者がリラックスして話せる環境作りが必要です。開始前は緊張をほぐすために、アイスブレイクを5分ほど取り入れると良いでしょう。
ヒアリング後に実施すること
顧客は少なからず「不満や要望」を抱えています。そのため、多くの顧客はヒアリングを通して、この先のアクション(改善)に「期待」しています。顧客が、ヒアリングを受けて良かったと思えるように、情報をアクションにつなげましょう。改善を繰り返し実施することで、顧客の求めるサービスへと昇華できるはずです。
まとめ
新規事業の立ち上げは、暗闇に閉ざされた迷路を進むようなものです。その道は、本当にゴール(成功)につながっていますか。手探りで前に進もうとして、見当違いの方向に進んではいませんか。成功に辿り着くには、顧客から必要とされる企業でなくてはなりません。まずは、事業を正しい方向に向かわせることから始めましょう。
そのためには「苦しいときほど、顧客の声に耳を傾ける」ことが肝要です。ヒアリングにより顧客ニーズを掴み、効果的な事業計画につなげること、それが事業改善の第一歩になるでしょう。
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